「副作用の無い薬が作りたい!」と思ったことが、私が研究者を志す動機でした。今でもそれは、自身のライフワークとなっております。
特に核酸を骨格とした機能性分子の開発を中心に、これまでは当然の様に、「標的分子に強く結合し、生体機能を凌駕するモノ」を創ることを目指しておりました。
しかしながら、妊娠期間中、自分と完全に異なる個体である胎児との共生を経験し、これまでの創薬に対する考え方は、ひょっとして「何かチョット違うのではないか?」と思いました。これまで生体に「勝つ」ことを、ずっと目指してきた訳ですが、勝ったらダメなのではないかと。まさに妄想レベルではありますが、直感的にそう感じた訳です。
この「勝ったらダメだ」という感覚を、班員らと議論し、サイエンティフィックな言葉で表現しようと模索した結果、マテリアルと生体分子との間に働く「弱い相互作用」に辿りつきました。
近年では抗体医薬、核酸医薬、細胞医薬など様々な創薬モダリティが誕生していますが、高度に最適化された最先端医薬品においても免疫原性が認められる場合があります。また、ステルス性が期待される生体親和性材料に対してさえも、生体から異物として認識され抗体産生が誘導されます。生体は一体、マテリアルの何を見ているのでしょうか?
実は生体分子は、体内に投与されたマテリアルと「弱い相互作用」を介してコミュニケーションしています。弱いからこそ環境に応じて柔軟に変化可能であり、弱いからこそ分子認識における特異性を発揮することができます。そして、弱いからこそ、これまで定量的解析が困難でありました。現時点では「弱い」も「相互作用」も非常に曖昧な表現ではありますが、本領域研究の推進により、5年度には物質共生のための新しい物理化学的パラメーターが求まり、「物質共生学」という新たな学問分野が切り拓かれることを、私は信じております。
「弱い相互作用」に思い当たるフシがある方、ぜひ本領域メンバーにご参画下さいませ!
そして将来、「物質共生学」の教科書を、ともに書き始めることができればうれしいです!
東京工業大学
生命理工学院
教授 山吉 麻子